「冬」の時代を暖かく過ごすには?(前編)

  
2023年3月6日

景気後退から回復までの道のりとは

ロシアによるウクライナへの侵攻、COVID-19感染拡大がもたらした影響、またAIに代表されるデジタル技術の進展、地球規模の環境変化などにより、不確実性に起因する不安や動揺が拡がっています。長年通用していた価値観(パラダイム)は揺さぶられ、新たな局面を迎えています。雇用、金融、小売、そしてエネルギーや資源、環境の持続可能性(サステナビリティ)など、影響はほぼすべての領域に波及しています。

サプライチェーンにもその影響が及んでいます。サプライチェーンの起点となる市場では、需要が高まるも供給が十分に追いついていません。COVID-19や自然災害をはじめ、政治的、軍事的な要因がもたらす供給網の混乱と寸断が次々と起こり、原材料や部品の調達難が続いています。逼迫する雇用や、エネルギーなどの物価上昇も悪影響をもたらしています。

物価を抑えようと利上げに踏み切る主要各国政府ですが、物価の高止まりは個人消費の勢いを削ぎ、景気回復を鈍らせています。

とはいえ過去を振り返れば、やがて景気はいずれ持ち直すことでしょう。ただ気がかりなのは、回復がいつになるのか。この厳しい「冬」がいつまで続くのか、ということです。

それに対する明確な答えは、まだ出ていません。数カ月先なのか、数年先なのか。10年とも20年ともいわれる、日本における失われた歳月のように長期に及ぶのか。米国政府は、物価上昇率を6%台まで引き下げてきましたが、2023年の目標とする2%は高い壁に思われます。製造業の国内回帰、自国での生産インフラの整備に向け、官民挙げての大規模な投資に舵を切れば、資源・エネルギー高と財政支出の増加は否めません。

両極端への右往左往 

先行きを見通せない不確実性や変動性がサプライチェーンに広がり、それが「恐れ」(Fear)という形で顕在化しています。恐れは、大きく4つにわけられます。 

  1. 複雑なシステム(complex systems)に対する恐れ 
  2. 未知なるもの(unknown)への恐れ 
  3. 綱引きのような対立(conflict)への恐れ 
  4. 今あるもの」を失うことへの恐れ 

です(詳しくは弊社コラム 組織変革を阻む「第4の恐れ」とは?もご覧ください)。 

人々の心のうちに潜む恐れは、さまざまな形で現れます。たとえば、過剰在庫と過小在庫は恐れが顕在化した1つの姿です。

「売上を減らしたくない」という恐れは、企業における在庫積み増しの動機となり、結果的にサプライチェーン全体での在庫過多と利益圧迫を招きます。一方、「キャッシュフローを失いたくない」という恐れは、適量な在庫水準を下回るほどのコストカットへと企業を駆り立てて、深刻な在庫不足を引き起こしかねません。

過剰在庫と過小在庫は両極端な現象ですが、「恐れ」を抱えた企業活動に共通して見られるのは、両極の間を揺れ動くことです。

ここで事例を2つ挙げましょう。

事例1:「効率性」(efficiency)と「利用可能性」(availability)という両極を揺れ動く企業の行動が多く見られます。一方の極(きょく)である「効率性」では、顧客からの厳しい要求を満たすために徹底的にコストを削減した高効率のサプライチェーンを目指しています。その結果、10ドルで売る製品を3ドルではなく1ドルで生産することができるかもしれません。しかし、半年以上ずっと売れずに残ってしまえばどうでしょう。サプライチェーンにおいては効率的かどうかよりも、キャッシュを生み出す儲け、スループットの向上につながるかどうか。つまり「効果的」(effective)であるかどうかがより重要です。顧客の需要に応える「俊敏さ」(agility)が鍵になります。

他方で「効率性」とは逆の極として、「在庫をたくさん揃えていつでも需要に応えられるようにする」「いつでも顧客が利用できる状態にある」すなわち、モノが常にある状態(利用可能性)を高めよう、という動きも見られます。しかし、反対にこちらは市場の急激な変化の中で過剰在庫、不良在庫を引き起こすリスクに晒されてしまいます(関連記事:「滞留する不動在庫をつくらないようにするには?」)。

事例2:さらに「グローバルサプライチェーン」から「ローカルチェーン」へと揺れる企業も多くあります。グローバルサプライチェーンを構築、利用してきた企業が、地政学リスクや大規模自然災害のリスク、多数の国をまたがる不確実性の上昇を背景にして製造業の国内回帰や特定地域内に閉じたローカルチェーンへ移行しよう、という動きが活発です。アパレルや食品、eコマースなどでその高いニーズが認められます。しかし、あまり極端な方向に走り過ぎれば逆効果になります。そもそも顧客に商品やサービスを提供するためのリードタイムを短縮し、市場の需要にタイムリーに応えるには、ローカルチェーンへの移行だけでは十分ではありません。適切な在庫水準と生産能力を橋渡しするシステムが必要なのです。

迅速にリスクに対応しようとする行為は合理的ですが、極端な反応や方針の間を右往左往すれば、サプライチェーンのシステムが混乱してしまいます。

究極の制約は「フローの乱れ」

私たちプログレッシブ・フロー・グループのTOCコンサルタントは、組織の活動を司る究極の制約は、業務におけるフロー(流れ)の乱れにある、と考えています。

流れというのは、企業活動のあらゆる分野に見出せます。製品、プロジェクト、WIP(仕掛在庫)などに流れがあります。アイデアの創出や意思決定などにおけるプロセスにおいても、フローが存在します。スムーズな流れが創り出せれば、リードタイムの短縮やスループットの向上につなげられます。

ではなぜ、フローが乱れるのでしょうか

近々公開の後編ではフローが乱れる原因を探るとともに、厳しい「冬」を暖かく過ごし、乗り切るためのより具体的な方策や考え方をお伝えしたいと思います。

プログレッシブ・フロー・ジャパン コンタクト

私たちは企業やサプライチェーンのスループットを左右する「制約」に着目。本来のポテンシャルを引き出し、業績やパフォーマンスの飛躍的な向上をお客様とともに実現します。

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