リーダー不在の状況を脱するいイメージ

リーダー不在の状況を脱するには?

  
2022年7月29日

全体最適を主導するリーダー人材

リーダーとは、組織の全体最適化を主導できる人材といえます。全体最適化とは、組織経営を律する少数の制約を見極め、組織全体の目標(ゴール)達成に向け、その制約を最大限に活用するプロジェクト、活動の推進を意味します。

本来は、最終的な意志決定を行う経営トップが担うべき役割ですが、現場の隅々までなかなか把握できないこともあります。現場の一挙手一投足にまでいちいち口を挟むのも非効率です。

そこで、目標達成に向けて、取り組みを現場に実装、展開していく人材がリーダーとして不可欠です。全体最適を主導するリーダー人材

ただ、リーダーが「自分の会社(や部署)だけ儲ければよい」という独りよがりな考え方で進めると、その場その時はしのぐことができても、いずれ周囲から不評を買って孤立し、信頼を失います。社内組織だけでなく、販売先の顧客や仕入れなどの取引先含む、サプライチェーン、デマンドチェーンに連なる各主体が利潤を上げ(=しっかりと儲け)、Win-Winの関係を築ける状態を、全体最適と捉えることがポイントです。

先行き不透明な現代にあってこそ、全体最適を推進できるリーダー人材を育成しなければ、したたかに生き残ることが困難になります。

変化する制約を把握する

組織が生み出す価値、スループットを律する制約は絶えず動き続けています。たとえば、原材料や部品などの資材が制約になることもあれば、生産する工場が制約になることもあります。営業にとっては市場、顧客の動向が制約になることもあります。

また、ある時点や期間において高いパフォーマンスを発揮していても、前後の工程や企業を取り巻く環境の変化によって気づくとスループットがいつの間にか相対的に低下していた、ということも起こり得ます。直近の状況から「うちの部署は円滑にやっている。特に気になる制約もなければ、それでいいじゃないか。他の部署で対応を考えれば良いことだ」と他人事のように思うのは、禁物です。

逆に、「うちの部署は問題ないかもしれないが、全体を俯瞰して制約になっているところを見極めよう。その制約を最大限活用するために何ができるかを考えて、スループットを最大化しよう」というアプローチが、全体最適の考え方といえるでしょう。

弊社コラム(安定した供給網を構築するには?)でご紹介したメーカーの事例では、全体を広く見渡して制約を把握し、それらの制約をどのようにコントロール、活用すればよいか判断し、対策を講じたり働きかけたりできる担当者Xがいました。この担当者は次のような知見を持っていました。

・調達する部品が他の製品にも転用できる共通部品であることを、培っていた生産の見地から見抜いていた

・自社の生産基盤のキャパシティを左右する制約がなにかを把握し、生産性を高めるために、何を、どのようにコントロールすればよいかを熟知していた

とはいえ、この担当者Xが所属していたのは、いわゆる「稼ぎ頭の花形部署」ではありませんでした。どちらかというと裏方というべき、生産管理部に属していました。

そのような部署にいながら、なぜ、この担当者が全体最適の視点を持っていたかのでしょうか。まず、先述のように、生産部門などで培ったさまざまな経験が活かされました。かつ、さまざまな部署との調整役を担っていることから幅広い情報を得やすい立場にありました。どこに課題や制約があるかを客観視できるポジションにあったのです。

変化する制約を把握するそして何より、自身のミッションは、自社や自部門の儲けだけではなく、(仕入先を含む)取引先や客先も一緒に儲けること。そしてともに喜びを分かち合いたい、という思いが、仕事のモチベーションにありました。

このようなポジションにある部署は、たとえば、全社のデジタルトランスフォーメーション(DX)をリードし、また下支えする役割を担う情報システム部門などにも本来当てはまります。

リーダー人材が育ちやすい環境づくり

ある人材がスーパーマンのようにいかに秀でていても、組織の中の一匹狼では成果が出せるわけではありません。周りの理解や協力が得られてこそ、組織全体での大きな成果が現れます。

実は、担当者Xにはその取り組みを後押ししてくれる、信頼できる上司がいたことも幸運でした。その上司は担当者Xに「何か問題があったら俺が責任を取るから、思い切ってやってみろ」と言って背中を押してくれました。もし、こうした上司がいなければ、どうでしょうか。「この人のために一緒に神輿を担ごう!」と奮い立つことなく、せっかくのリーダー候補も組織の中でくすぶったり、組織の中で浮いて空回りしたりするかもしれません。

リーダーと見做される人も、初めからリーダーであったわけではありません。いかに優秀でも、入社したばかりの新人がいきなりリーダーとして認められることはごくまれです。その意味で、初めからリーダーの人はいないのです。

リーダー人材が育ちやすい環境づくり

では、どのようにしてリーダーになっていくのでしょうか。

1つ言えるのは、失敗を糧にしてリーダーになっていく、ということです。前述した担当者Xもそうでした。リーダーとして成長していく人と、そうでない人の違いを生む大きなポイントが、失敗から学ぶことができるかどうかです。

もし失敗した時には

もし自分が失敗をした場面で、原因を誰かのせいにする、責任を他の部署などに押し付ける、といった振る舞いをする人は、近視眼的な行動、部分最適の対応に陥りがちです。そのような姿勢では全体最適を進めることは困難ですし、なかなか周りの協力も得られません。誰かのせいにして難を逃れる文化を見た後輩たちは、同じようなやり方を繰り返してしまうかもしれません。

一方、後輩や周りが失敗した時はどうでしょう。思わず大きな声が出そうになるかもしれません。けれど叱るにしても、相手が「なぜ、この人が自分を叱責するのか」という理由を気づかせなければなりません。「そうか、自分の振る舞いは部分最適に閉じていたのだ」という気づきを通じて、全体最適を推進できる、次なるリーダーとして成長してもらうことが大切です。

その意味で、失敗は多かれ少なかれ、貴重な成長のチャンスと捉えられます。全体最適を進めるリーダーの背中を見ながら育つ人材の中に、次の新しいリーダー候補がきっと生まれてくるはずです。